安心・安全Q&A

冷凍食品は便利だけど栄養価はどうかな?

『冷凍食品についての素朴な疑問シリーズ』

冷凍食品は便利だけど、栄養価はどうかな?

実は冷凍しても栄養価はほとんど変わらず、
逆に高いというメリットもあるのです。

私たちが日々食している冷凍食品は、通常次の4つの条件を満たすようにつくられています1)。

(1) 前処理している
(2) 急速凍結している
(3) 適切に包装している
(4) 品温を-18℃以下で保管している

冷凍野菜の栄養価を気にする方がいらっしゃいますが、冷凍野菜はこれらの4条件を満たして、即ち、旬の時期に収穫し、すぐに工場に搬送して前処理を行い、急速凍結して-18℃以下にして包装しているので、栄養価が落ちず品質が良好なのです。

冷凍野菜についてもっと詳しく説明しましょう。

旬の時期に野菜を収穫

野菜の主要な栄養素はビタミン類とミネラルですが、季節変動が大きいのはカロテン(体内でビタミンAに変化)とビタミンCです。下図は、ほうれんそう、にんじん、及びブロッコリーのカロテンとビタミンCの年間の含有量の変化を示したものです2)。

これを見るとビタミンCは、ほうれんそうで12月は9月の4倍、ブロッコリーでも2倍近い差があります。カロテンは、にんじんで6月と1月で2~3倍、ブロッコリーで4倍も差があります。このように栄養価の観点からは野菜を旬の時期に収穫することが大変重要なのです。市販されている多くの冷凍野菜は、栄養価の高い旬の時期に、大量に収穫してすぐに工場に搬入して処理されているのです。




図1.カロテン・ビタミンC含有量の変化2)

前処理で酵素失活

工場に搬入された野菜は、その日のうちに、あるいは一晩冷蔵後前処理されます。前処理は、洗浄、非可食部の除去、カットなどですが、ポイントとなる工程がブランチング処理です。ほとんどの野菜は、自身の中に酵素を持っています。

この酵素は生体機能にとって大切なものですが、収穫後常温や冷蔵のまま放置しておくとこの酵素が働いて野菜の構成成分を変化させてしまい、色、味、風味、食感を損ねることになります。従って酵素が働かなくなるように(酵素失活と言います)湯に浸漬させて加熱します。このブランチング処理は調理の加熱ほどの時間はかけず短時間で行います。こうすることで野菜の品質を保持し次の凍結に進みます。

なお、収穫した野菜をブランチングせず、室温や冷蔵に保管しておくと、上記の酵素による変化の他に、乾燥や空気による酸化、野菜の呼吸などにより日を追って味や栄養価は落ちていきます。例えば、ほうれんそうを冷蔵で9日間保管した場合、ビタミンCは元の30%まで低下するという報告があります3)。収穫したらすぐに前処理をすることが品質を保持し栄養価を保つために必要なことがわかります。

急速凍結

ブランチング処理した野菜は直ちに水冷し凍結しますが、ここでポイントとなるのが急速凍結です。家庭の冷凍庫で凍結させる普通の方法では、ゆっくり凍るので氷の結晶が大きく成長し野菜の細胞を破壊してしまいます。

図2.急速凍結aと、緩慢凍結bの凍結温度と時間の関係3)

上の図は、冷凍食品工場で行われる急速凍結(aの曲線)と家庭の冷凍庫で凍結させる緩慢凍結(bの曲線)を示したものです。一般的に、食品が凍結し始め氷の結晶が最も大きく成長する温度は-5~-1℃です。

凍結するときはこの温度帯をいかに早く通過させるかがダメージを減らせるかに関係してきます。急速に温度を低下させることで、氷結晶成長が十分進行しないうちに、氷核生成が優勢な低温の領域に到達するため小さな氷結晶が多数生成し4)、品質変化を抑制することができるのです。

凍結保管

そして、急速凍結した後は、-18℃以下で工場から出荷され、流通され、販売され家庭の冷凍庫に保管されるのですが、冷凍野菜は冷凍状態に保持することによって初期の栄養価を保つことができます。

下の表は、ゆでたほうれんそう、キャベツ、アスパラガスを冷凍保管したときのビタミンCの変化を示したものです5)。

野菜によって若干異なりますが、保管1~2ケ月では開始時に比べ90%以上のビタミンCは保持されています。更に12ケ月後においても80%以上保持されていることがわかります。

以上のように、冷凍野菜は、本来野菜が持つ栄養価をできるだけ保持するように、加工工程、加工条件を工夫し製造されたものです。従って、多くの場合、常温や冷蔵保管した場合よりも栄養価が損なわれず品質が保たれておいしく食することができます。ただし、冷凍保管中にもわずかの変化はあるので、購入後は早めに消費することは肝要です。

【補足】

最後に、今まで冷凍がいかに食品の品質を保持するか説明してきましたが、逆に、冷凍中の若干の変化(特に、前述の緩慢凍結による変化)を利用して、食品の栄養価、旨味を向上させる例もあるので簡単に紹介しておきます。

きのこ類を家庭で凍結させると、特にしいたけ、ブナシメジなどはグアニル酸が増加し嗜好性が向上したという報告がされています6)。
又、しじみを冷凍することで、アミノ酸の一種であるオルニチン含有量が4倍以上増加すると言われており1)、冷凍を積極的に活用することも今後拡がると思われます。

参考文献

1)(一社)日本冷凍食品協会ホームページ
2) 女子栄養大学栄養学部 辻村卓教授報告書より引用
3) ベターホーム「冷凍の科学」
4) 鈴木徹:野菜情報「国産野菜の冷凍加工に向けた取り組み」、2014年7月号
5) 辻村卓、新井京子、小松原晴美、笠井孝正:日本食品保蔵科学会誌、23(1)、1997
6) 石黒、菅原ら:日本食生活学会誌、17(3)、247、2006


鳥羽 茂 氏(とば・しげる):東京工業大学大学院卒業後、味の素㈱入社、商品開発業務、調理食品研究所長を経て味の素冷凍食品㈱で品質保証業務に従事、同社定年後約7年冷凍野菜専業の大手企業、ライフフーズ㈱で品質保証業務に従事。神奈川県食の安全・安心審議会委員(現)

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3 thoughts on “冷凍食品は便利だけど栄養価はどうかな?

  • 「従って酵素が働かなくなるように(酵素失活と言います)湯に浸漬させて加熱します。」
    との事ですが、人間に有益な酵素が失われると云う事でしょうか?

    Reply
    • Q&Aを担当いただいている鳥羽氏から回答を頂きました。

      「ご質問に対して回答いたします。
      ブランチングという操作は、酵素を失活させて、酵素により野菜の構成成分が変化して、色、味、風味、食感が損なわれることを防ぐことを目的にしています。確かに酵素は人間にとって有益ですが、消化や代謝に必要な酵素は人体で数千種類も作り出されており、通常は外部から酵素を摂取する必要はありません。
      しかも、外部から摂取した生野菜等の微量の酵素(タンパク質)は、他の肉、魚等のタンパク質といっしょに人体の酵素で分解されてしまうので、摂取した酵素が人体で酵素として働くことはほとんど期待できません。
      従って、生野菜等に含まれる酵素をブランチングで失活させても、マイナス面はほとんどなく、プラス面が大きいと考えています。
      なお、最近『酵素食品』の利用により、酸化防止や老化防止、美肌、ダイエット効果などをうたい文句に多くの健康食品が販売されていますが、学術的な報告はまだありません。厚生労働省は、『酵素食品』の有用性、安全性をどのように評価すべきか決めたところでまだ結論はでていません。」

      (編集部より)生野菜サラダは、現在の技術では冷凍野菜として提供することはできません。冷凍野菜は通常の調理で行う加熱を仮に10としたら、8くらいの下茹で(ブランチング)をしています。残り2くらいを加熱して、生から調理したのと同等の加熱状態になり、栄養素等も生から10加熱したものとほぼ同等になります。自然解凍でOKと表示させている冷凍野菜は通常の調理と同等の加熱(ロングブランチング)を行っています。冷凍野菜は、加熱後に食する野菜を前提に製造されています。

      Reply
  • 明確なご回答ありがとうございます。非常に判りやすかったです。

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